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一年の独学で予備試験を超上位合格した理由、完全解説

法的三段論法を必ず守れとかいう嘘について

はじめに

予備試験や司法試験の勉強をしていると、頻繁に三段論法という言葉に遭遇する。自分は実は数か月前に初めて理解したのだが、法律の世界では特に重要なルールらしい。難しい問題ほど三段論法を守れとか、三段論法を崩しただけで大減点だ、などと巷では語られているらしい。しかし、三段論法は本当にそんなに大事なものなのだろうか、という点についてはあまり触れられてこなかったため、今回そのことについてまとめてみた。

 

(法的)三段論法とは

例えば、「宝石を盗んだXは窃盗犯である」という自明の命題について考えてみよう。通常、これを論証しようとするなら、こう考えるのが自然である。

「Xは宝石を盗んだ→だからXは窃盗犯である」

しかし、法律家はこのようには考えない(らしい)。どのように考えるかというと、次のように考える。

「物を盗んだものは窃盗犯である→Xは宝石を盗んだ→だからXは窃盗犯である」

このように、1大前提(規範)2小前提(あてはめ)3結論と3つの段階を経ることから、(法的)三段論法と呼ばれている。では、普通に考えれば二段で済むものをなぜわざわざ三段で考えるのだろうか。

 

これはおそらく、国民を納得させるためのものであろう。すなわち、小前提(あてはめ)と結論だけでは、国民が納得できない場面があるからではないかと考えられる。上記の「Xは宝石を盗んだ→だからXは窃盗犯である」という設例では、三段論法を用いなくても国民は納得できるのではないか、と考えたあなた、次の設例ではどうだろうか。

「不法占有者Yは民法177条の第三者にあたらない」という命題を論証せよ。

三段論法を用いずに論じれば、次のようになる。

「Yは不法占有者である→Yは177条の第三者に当たらない」

しかし、これでは、国民は到底納得できないであろう。なぜなら、通常、第三者とは自分と相手以外のすべての人のことを指すからである。ここで国民を納得させる道具として、三段論法が威力を発揮する。

「177条の第三者は登記の欠缺を主張する正当な権利利益を有する人を指す→Yは不法占有者であり、登記の欠缺を主張する正当な権利利益を有しない→Yは177条の第三者に当たらない」

どうであろうか。もし大前提(規範)が万人に納得いくものであれば、上記の結論はすんなりと受け入れることができるだろう。そこで、規範の理由付けが重要になってくる。しかし、理由付けは三段論法と直接には関係しない。

 

法的三段論法は必ず守るべきなのか

ここまで読んできて、勘のいい人は答えがわかっただろう。そう、法的三段論法が必要となるのは、事実だけから直接結論を導いた場合国民が納得できないときに限られる。そのような場合としては、条文の文言が抽象的である場合や、条文に反した結論になる場合などが考えられる。いわゆる予備試験や司法試験の論点として知られるものは、たいていこのような場合に属する。だからこそ、予備試験や司法試験では三段論法の重要性が必死に叫ばれるのである。

しかし逆に、上記の場合に当てはまらないのに三段論法を用いると、不自然である、というかうざい。最初に挙げた窃盗事例のようなときには三段論法を使うべきではない。なぜなら宝石を盗んだ人が窃盗犯であるのは当たり前のことだからである。

 

予備試験・司法試験での三段論法の使い方

以上のように、理屈の上では、事実だけから直接結論を導いた場合国民が納得できないときには必ず三段論法を用いる必要がある。しかし、上記の場合に当てはまるかどうかは一義的なものではない。それに、実際の試験では、圧倒的に時間が足りないため、律儀に上記の場合に毎回三段論法を論じれば途中答案になってしまう。そこで、大事なのは、三段論法を使う場面を極力制限することである。目安としては、設問一つ当たり三段論法を一回使う、というところだろう。もちろん2回使うこともあれば一度も使わないこともある。しかし、実際の予備試験を受けた感触では、平均して設問一つ当たり一回使った。

この方法のメリットは、まず、メリハリがつくことだ。試験委員は、たいてい設問ごとに一番聞きたいことを用意している。これを巷ではメイン論点と呼ぶ。三段論法を使う場面をメイン論点に絞れば、真の意味で試験委員の期待に応えることができる。試験委員はすべての論点で三段論法を使ってほしいなどとは一ミリも思っていない。これに関連して、三段論法の使用を制限すると、点数を最大化できる。たいてい、メイン論点に点数が高く配分されており、その他の論点の配点は低い。そして、メイン論点だけ三段論点を使うようにすれば、ほかの論点にかける時間を節約してメイン論点に充てる時間を増やすことができる。そして、メイン論点の記述も充実する。まさに、少ない犠牲で大物を手に入れることのできる理想的な戦術といえよう。

 

まとめ

逆説的になってしまったが、筆者は三段論法をあえて使わない場面を増やすことで点数が増えると考える。もちろん、時間に余裕があれば、三段論法をもっとたくさん使っても問題ない。しかし、特に刑法などでは、論点があまりにも多く、取捨選択が必要になってくる。そのような場面では、三段論法を守ることが命取りになりかねない。